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2004/12/08
平田のことは、平田と呼んでください☆〜平田智美のデカダンス
ある種、差出人が恋愛に飢えている、あるいは性的な衝動に駆られているといった印象を読者に与えようとするスパレが多い中、今回届いたスパレは、とってもさっぱりとしている。まるで20世紀の文通相手募集みたいな爽やかさに溢れたスパレだ。
題 名:ども!はじめまして!
差出人:hirarin_love@■■■■■.co.jp
日 付:2004年12月7日 16:52:06:JST
宛 先:secret@palm.■■■
はじめまして☆平田といいます。えーとですね、
以前メル友募集してましたよね??その書き込みに
とても興味を持っててアドレスを控えてたんです。
ちょっと前の書き込みでしたけど。
ぜひぜひ仲良くなりたいと思ってるんです☆
最初ですので、自己紹介を致しますね☆
平田智美、22歳でフリーターをしております♪
趣味は旅行と読書で、好きな作家は筒井康隆さんです。
筒井さん、初期の不思議な実験的な短編が
特に平田のお好みでございます☆
平田のスリーサイズなんかはまだ言わないほうがいいかな(笑)?
そんなワケでして、平田、お返事待っております!
趣味や、どこに住んでるのか教えて欲しいです☆
あ、あと何て呼んだらいいでしょうか?
平田のことは、平田と呼んでください☆
<hirarin_love@■■■■■.co.jp>
ご覧のように、このメールの中で、性的な刺激を匂わせる文章はたった一行のみである。つまり!
平田のスリーサイズなんかはまだ言わないほうがいいかな(笑)?
しかも、結局のところ「スリーサイズ」は教えていない。そういう意味では爽やかな高原の岩清水レモン路線は捨てきっていないところが凄い。ただし、「まだ言わない」だし「(笑)?」ということなので、将来的な返信の中で突然、そうした下世話なテーマについてのトークが爆発するという可能性も残している。非常に高度な文章だ。
さらに、このメール全文を通して特徴的なのが「平田」というワードだ。これは、差出人の単なる苗字という意味以上の意味を与えられた単語になっている。
はじめまして☆平田といいます。
特に平田のお好みでございます☆
そんなワケでして、平田、お返事待っております!
平田のことは、平田と呼んでください☆
前述の「スリーサイズ」発言まで含めると、都合5回ほどの「平田」が登場する。ここでは、あえてフルネームで名前を説明している文章は外している。ここで指摘したいのは「平田」と自分を「苗字」だけで呼んでいる部分のみに焦点を当てたい。ここに差出人の強いメッセージ性が込められている。
その意味を解読するためには、これら「平田」の部分をすべて本名のファーストネームに置き換えてみればわかる。
・はじめまして☆智美といいます。
・特に智美のお好みでございます☆
・そんなワケでして、智美、お返事待っております!
・智美のことは、智美と呼んでください☆
すると、途端に「オンナ度」あるいは「メス度」と呼ばれるレベルメーターが上昇する。もう少し理屈っぽく言えば、自らをファーストネームで呼ぶことにより、自己を他者に対してと同様に愛すべき対象物として捉えている人格を表現することになる。
例)「朋ちゃんはね…」
しかし、自らを「平田」と苗字で呼び捨てにすることで、真逆の印象を読者に与えることが出来る。しかも、「お好みでございます」とか「そんなワケでして」とか「待っております!」という固めの謙譲語を使うことで、非常に知的な印象さえも読者に与えている。しかも、それでいながら、「☆」を多用したり「特に」を漢字で書きながら「ワケ」はカタカナで書いてみたり、このあたり、知的な女性のオチャメな演出も必死に加えている。こうして生まれた特異な人格が「平田」なのである。
さらに、以下のような性格付けで、「平田」には独自の色彩が付与されている。
平田智美、22歳でフリーターをしております♪
趣味は旅行と読書で、好きな作家は筒井康隆さんです。
筒井さん、初期の不思議な実験的な短編が
特に平田のお好みでございます☆
知的な読書家ではあるけれど、探求心や冒険心は豊富である、と。しかも、「平田」自身が年配の男性ならばともかく、22歳の若い女性で「筒井康隆」好きということは、彼女の周囲には彼女に「筒井康隆」を薦めた年配の人間がいて、彼女はその推薦を受け入れるほどには、年配者への敬意を持っているという推測も可能である。(とくに、相手が初老の紳士であればなおさら!)さらには、何か自らの経験値を超えるような出会いを期待して、たまには長期の国内旅行に出かけるような、そんな人格。「趣味は旅行と読書で、好きな作家は筒井康隆さんです。筒井さん、初期の不思議な実験的な短編が特に平田のお好みでございます☆」という一文には、その程度の妄想的な物語が含まれている。
ところで、以上のような「平田」という人格は、今回のメールの中で徹底して管理されており、矛盾点は非常に少ない。たとえば、以下の謎に満ちた冒頭の文章においても、「平田」というキャラクターは、一度ちゃんと整理された上で提示されている。
はじめまして☆平田といいます。えーとですね、
以前メル友募集してましたよね??その書き込みに
とても興味を持っててアドレスを控えてたんです。
ちょっと前の書き込みでしたけど。
ぜひぜひ仲良くなりたいと思ってるんです☆
そもそも、「とても興味を持っててアドレスを控え」るほどの「書き込み」ってどんなだろう?というのが、このメールを最初に読んだ時に浮かぶ素朴な疑問だと思うのだが、これさえも、「初期の不思議な実験的な短編」を中心とした筒井作品が好きな女性ならばさもありなん、と思える。それなりに、持って回った文学的言い回しに、それなりの諧謔性とかが含まれていれば、この種の女性は反応しそうである。…という想像は可能だ。だからと言って「アドレス」を控えておくまでのことをするのか、つーか、そもそも、控えておくって「コピー&ペースト」のことだろう?とか、疑問はまだまだ溢れ出してくるのだが、まあ、よしとしよう。(←なぜ?)
とにかく、「平田」の人格は一定している。
趣味や、どこに住んでるのか教えて欲しいです☆
あ、あと何て呼んだらいいでしょうか?
平田のことは、平田と呼んでください☆
この人のメールにしては珍しく、スパレ特有の「揺れる文体」が露出している部分だ。つまり、住んでいる場所を教えろという、この女性の人格にしては「(笑)」と並ぶぐらいに下心をストレートに刺激する質問の直前には「趣味」を質問し、その直後には「呼び名」を質問するという、揺れまくる文章が登場している。(冷静になればわかることだが、趣味や呼び名への興味と、住んでいる場所への興味は、本来まったく別のモノだが、この文章の中では見事にミキシングされている!)
しかし、「揺れる文体」とは言え、非常に狭い文章の中で揺れていたり、「平田のことは、平田と呼んでください☆」というキャッチーな、いかにも平田らしいチャーミングな文章がその直後に続いていることによって、この文章の不思議さは見事なまでに誤魔化されている。
2004-12-08 | Project Palm 直接リンク