« キラクだからステキ | メイン | 米国の76%、世界の30%。 »

2004/11/24

揺れる文体と二段階引用文〜ミカという女

 実は、スパレ文化の進化は目覚ましい。(※スパレ=スパム・レディのこと)

 ということは、これはこれでちゃんとしたビジネスとして成立しているんだろうか?などと想像してしまうのだが、今回読者のにすむらさんからスパレに絡んで、以下のようなメールを貰った。

はじめまして。
スパレの話題が気になって時折拝読させていただいてます。にすむらと言います。
 
自分の元にスパレらしきメールが来るとまず差出人の名前などで検索しますと、機長様はじめあちこちのサイトにひっかかり、これがスパムであると確認することができます。この事ひとつとっても、スパレ情報を紹介されていることがウイルス情報サイトと同様に役に立っていると思います。感謝しております。
 
さて、今日は私の元に来たスパレのメールを紹介します。よくスパムであるのはタイトルにRe;とつくものがあり気を引こうとするようですがこのスパレは初めて文面を引用しています。こんな文を書いた覚えは無いので、スパム効果は薄れると思うのですが。まったくもってスパレの意図がわかりません。あて先は私のアドレスになっておりました。

 あはは、早くも「スパレ」が普通名詞として機能していることにまず驚くが、そんなことよりも気になるのは、この人が見つけたという不思議なスパレだ。「よくスパムであるのはタイトルにRe;とつくものがあり気を引こうとするようですがこのスパレは初めて文面を引用しています。」という、不思議なスパレをさっそく見て頂こう。これだ!

件 名:宛先が違うよ(笑)…私はミカ
差出人:h4u_mimika_day@■■■■■.co.jp
日 付:2004-11-23-16:34
 
>ちぃ〜す!おれっち、ヨド君だよーん!コンビニの彼氏と別れたんだってね!
>ところで最近なにやってんの?俺も今フリーだしさあ、暇だったらメールして!
 
「誰?」とか思ったけど、丁度いま退屈していたので返信をしちゃいました!
(間違いメールなんか滅多に来るもんじゃないし)
う〜ん、誰に送るつもりだったのかな?頑張ってね〜
彼氏と別れたばかりってのが当たってたから、少しドキッとしちゃいましたが(汗)
ちなみに私は23歳だけど、よかったら何歳なのか教えて下さいね〜!

 まず、簡単な注釈を。

 便宜上「>」という引用記号で表現しているが、送ってもらったメールではこの部分が、私のメーラー独自の引用方式で引用されている。つまり、(あまり意味を深く考えずに理解して欲しいのだが)「ちぃ〜す!」以下の文章と「ところで最近なに」以下の文章は二種類の引用スタイルで書き分けられている。

■ちょうどこんな感じに!(私のメーラーはMacのMail)←クリックすると画像が出る

 ね?かなり斬新なスパレでしょ?

 ただし、アバンギャルドすぎたせいか、理解不能な部分もある。いや、もしかしたらそれさえもが「理解させずに興味を持たせる」という戦略なのかもしれないが、「ちぃ〜す!」以下と「ところで最近なに」以下の、2つの引用文の役割が少し怪しい。

>ちぃ〜す!おれっち、ヨド君だよーん!コンビニの彼氏と別れたんだってね!
>ところで最近なにやってんの?俺も今フリーだしさあ、暇だったらメールして!

 そもそも、この種の引用がメール内に残る場合、通常は、こうなる。

>○○○○(Aさんからのメールより引用)
>□□□□(Bさんからのメールより引用)

 こうやって、過去にやりとりされた文章が順番に引用されていくはずだが、上記メールでは上記2段階の引用文がどちらも同一人物(または、最悪でも同性の人間)から発せられた文章であることがわかる。つまり、どちらも「ヨド君」であると思われる。

 そこで、この2段階の引用文は、ヨド君とヨド君の文通結果という不思議な役割を示している。これはちょっと破綻が過ぎる。もちろん、「引用」は必ずしも自動的に創出されるものではなく、差出人(ミカ)によって創出されたものだと解釈すれば、ヨド君とおそらく女性(過去にコンビニの彼氏と交際していた!)の文通結果の中から、ミカが勝手にヨド君の文章だけを抜粋したと思えば、理屈上は成立するはずなのだが、ま、常識的に考えるとそんな面倒なことはしないと思われる。

 そういう意味でこの「2段階引用文」は、それ自体がスパレ史上では画期的な技法ではあるが、その使用法の面ではまだ熟成不足と言えるだろう。実際問題、「引用文」が残るようなメール交換の場合、普通はコピペをしまくるというよりは、メーラーの自動返信機能を使っているはずなので、そうだとすると、文通状態の途中で、突然メールアドレスを間違えてしまうという説明がつかない。しかも、普通に考えると、「ちぃ〜す!」以下の文章の方が、「ところで最近なに」以下の文章よりも新しいはずである。(←絶対にそう、とも言えないが…)しかし、文章を読む限り、明らかに「ところで最近なに」以下の文章の方が新しいように思われる。そういう意味でもこの「2段階引用文」には謎が多い。

 そう考えてくると、このメールにある「2段階引用文」は、ヨド君が旧知の女性(過去にコンビニの彼氏と交際していた!)との間で交わしていた文通状態のメールが、ふとした事故から別の女性(ミカ)のところに届き、それを不審に思ったミカが書いたメールと解釈するよりも、宛先の人間との交流を希望している、またはそれ以外の悪意を持った差出人(ミカ)が、宛先の人間を混乱させるために意図的に作ったものと思われる。

 そうなってくると、余計に気になるのがミカ自身のメール本文だ。彼女の意図とはいったい何なのか?

「誰?」とか思ったけど、丁度いま退屈していたので返信をしちゃいました!
(間違いメールなんか滅多に来るもんじゃないし)

 この書き出しは、見事なほどにスパレ特有の「揺れる文体」だ。そもそも「揺れる文体」なんて表現はたった今思いついた言葉だけど、冒頭の「『誰?』とか思ったけど」は、『誰?』と超口語で書き捨てているように、見ず知らずの相手への警戒感を露骨に示したかなり乱暴な表現だ。しかし、次の「返信をしちゃいました!」という文章では、うって変わって、「甘栗むいちゃいました」的な可愛い表現に転調している。でも次のカッコ内の「来るもんじゃないし」という文章では、一転して、客観的なデータ(間違いメールは滅多に来ない)を紹介することで自らの行為に正当性を付加しようとしている。これが「揺れる文体」の特徴だ。ユラユラと揺れながらも、ある一定方向に文章のテーマが進んでいく。同様のスタイルは以下の文章についても言える。

う〜ん、誰に送るつもりだったのかな?頑張ってね〜
彼氏と別れたばかりってのが当たってたから、少しドキッとしちゃいましたが(汗)

 差出人(男性)への興味一杯な「だったのかな?」的な前半の文書とは裏腹に、後半の文章では差出人(男性)を「頑張ってね〜」と思いっきり突き放している。そのくせ、差出人(男性)への興味が心の中で溢れ出してしまい、もはや我慢できなくなってしまったミカは、次の「彼氏と別れたばかりってのが当たってたから」以下の文章で、思いっきり内面吐露をしてしまっている。しかも、「(汗)」つきだ。おまけに、そこまで内面を吐露してしまった理由は「図星だったから」だという。この2行もまた「揺れる文章」の定番すぎる定番だと言える。ミカは思いっきり揺れながら、汗をかきまくっている。そして最後の文章がやってくる。尋常じゃない揺れ方をしている凄まじい文章だ。

ちなみに私は23歳だけど、よかったら何歳なのか教えて下さいね〜!

 「揺れる文体」のルーティンからすると、この文章のテーマは「冷静さ」であるべきだ。そういう意味では、なぜ暴露してしまったのかは別にすると「私は23歳」という情報は客観情報だし、そもそも「ちなみに」なのだから、構造上はミカの「冷静さ」を表現しているとも言える。だが、その直後に「よかったら何歳なのか教えて下さいね〜!」と、相手への興味を完全に吐露してしまっているという意味では、完全に破綻してしまっている。つまり、ミカは「(汗)」を最後に混乱しきってしまい、冷静さを装いながらも、女としての情念に負けて差出人への溢れるような想いにその身を任せてしまっている。なんでそこまで差出人に対して必死なのかという理由は不明だが…。(もちろん、「彼氏と別れたばかり」だからという説明はされているのだが…)

 そうやって「揺れる文体」理論で振り返ってみると、そもそもSubject自体が「揺れて」いる。

宛先が違うよ(笑)…私はミカ

 前半は業務連絡。でも「(笑)」で内面を吐露し、「私はミカ」で再び業務連絡をしているのだが、そもそも誰とも知れない相手に自分の名前を公表すること自体が混乱しているし、その直前に「…」という間でわずかな葛藤を表現している。そういう意味では内面吐露とも言える。つまり、Subjectの段階からミカは「揺れて」いたとも言えるのだ。

 ところで最後にひとつ!「ヨド君」という男性の名前が素晴らしい!何が素晴らしいと言って、ちょっと周囲にはいないぞ、というニックネームだからだ。その希少性は「パットラ君」(←適当に今考えた!)並みに珍しそうなニックネームだ。でも、「ヨドバシ」とか「ヨドガワ」とかって苗字は意外と簡単に想像できるので、冷静になってみると「あ、やっぱりいるかもね、この世のどこかには!」と思わせるバックグラウンドをこの「ヨド君」という名前は持っている。「パットラ君」(←適当に今考えた!)ではそうはいかない。ま、そんなこた、どーでもいいのだが…。

 という訳で、今回のまとめ。

 ミカという女性は、スパレとしてはごくごくノーマルなスタイルを持っているが、斬新すぎる「2段階引用文」で男心をくすぐろうとする、注目のニューカマーだ。今後登場するであろう、より進化した「2段階引用文」の将来が楽しみ!

2004-11-24 | Project Palm 直接リンク

コメント