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2004/12/03

幹子さんをを

 スパレ戦線にはどうやらお休みがないらしい。次から次へと新人がデビューしたり、古株スターが何度も何度もメールボックスにやって来る。そんな中、昨日私のメールボックスにやってきたスパレ(スパム・レディ)さんは、その名を「幹子」と言う。ミキコ…その名前も少し古風だが、文体も少し古風だったりする。どこか、言文一致文学の香りがする。たぶん、気のせいだけど。

題 名:お返事いただけないんですね・・・。
差出人:hananoyouni_awaku@■■■■■.co.jp
日 付:2004年12月2日 22:56:15:JST
宛 先:hananoyouni_awaku@■■■■■.co.jp
 
何度かメール出したんですけれども見ていただけましたか?
それともお返事をいただけないのは私が会いたいと言い出したからですか?私の気に入らないところがありましたらおっしゃってください。
そうすれば私も納得できます。それではあまりしつこくても嫌な女になってしまうので、あとはお返事ををお待ちしております。
 
幹子

 日付には2004年とあるのだが、どこか「昭和」の香りがする。いや、もう少し旧字体を混ぜたら「明治」でも通用しそうな古風な女性像が読みとれるメールだ。

 まず最初に印象的なのが、このメールのSubjectだ。

題 名:お返事いただけないんですね・・・。

 このSubjectの中に、このメールのすべてのエッセンスが、まるでよく煮込んだシチューのように溶け込んでいる。疑問形でありながら「?」はついておらず、「・・・」と語尾を省略しつつ、しかし、明確な書き手の意志として「。」で止めている。つまり、「この文章の行間(ぎょうかん)をよく読め!」と、この文章は読み手を脅迫している。いきなりである。

 この文章を疑問形だと思ったら火傷をする。この文章は疑問形というよりも疑問「系」だ。疑問のふりをしつつ、書き手の怨念を「・・・。」という8バイトの距離感の中に封じ込めてある。「このままお返事を貰えないと、わたくし、このまま何をしでかすかわかりませんことよ。おほほほほほ」というのが、この文章の正確な意味だ。そんな彼女、幹子さんがしでかそうとしている「何」かについては想像に任せるしかないが、もっとも軽いものでもリストカット程度の事件性は覚悟せねばなるまい!

 そんな疑問系に続いて登場するメールの一行目がこれまた凄い!

何度かメール出したんですけれども見ていただけましたか?

 たった今、Subjectで「返事」について疑問のような脅迫を呈したばかりなのに、その次の瞬間には「そもそも私の書いたたくさんのメール」についての疑問形が登場する。今度はちゃんと「?」がついているので、文法上は間違いなく疑問形だが、その意味はというと、「?」の直後に「見ていないとは言わせませんことよ!おほほほ」と続く文章が隠されている。

 正確に言うと、文末の「?」にはそういう意味のプログラムが仕込まれている。恐ろしい、呪いの「?」だ。この結果、幹子さんは、なんとまだ、メールの1行目であるにも関わらず、すでに読者の脳天に二度もパンチを食らわせることに成功している。

それともお返事をいただけないのは私が会いたいと言い出したからですか?

 もうおわかりだと思うが、この文章末の「?」にも特別な意味が封じ込められている。その証拠に、文末の「?」をマウスでダブルクリックしてみて欲しい。以下のような言葉がダイアログで表示されるはずだ。つまり、「そんなはずありませんわよね?私が会いたいと言わなければ、あなたは私に会おうとさえして下さらないのですから。私があなたに会いたいと言い出すまでに、どれだけ悩んだか、あなたはご存じかしら。来る日も来る日も(中略)。それほどまでにあなたのことを思った末の一言なのに、あなたは私をまた責めるおつもり?信じられない!もう、あなたのことが信じられない!あなたがお返事をお書きにならないのは、私への愛がさめたからなのね?…止めないで下さい。いいえ、もう私は決めたのです。あなたを恨みながら、私は今ここで、このベランダから飛び降りますことよ。おほほほ」という文章が、この文末の「?」には封じ込められているのだ。(※とっても危険なので、文末の「?」を本当にクリックしたりしないように!)

私の気に入らないところがありましたらおっしゃってください。

 Subjectも含めて、初めて疑問系(あるいは疑問形)じゃない言葉が出てきた。しかし、その意味は、文章とは真反対の意味として解釈しなければならない。つまり、「あなたが私に冷たいのは、私に責任があるというのですか?だとしたら、何?私の何が許せないと言うの?おっしゃって、アキヒトさん!」という意味だ。ただし、もしもこの文章をその意味のままに解釈して「君の○○○○なところが気に入らない」と言ってみたとしよう。すると、答は逆ギレか、泣き謝りである。そしてそのどちらもが意味するところは「結局、私のことが嫌いになったのですね?他に好きな人が出来たのですね?それはシズカさんのことですね?」ということだ。(※アキヒトとか、シズカって名前、どっから出てきたんだっけ?)

そうすれば私も納得できます。

 これも意味は真逆だ。「なるほど!私の○○○○なところが、あなたはお嫌いなのですね。わかりました。では本日限り、私たちは、綺麗さっぱり別れましょう!さようなら。お元気で〜〜〜!」とは絶対にならない。筆者は「何があろうと絶対に納得しない」はずだ。

それではあまりしつこくても嫌な女になってしまうので、あとはお返事ををお待ちしております。

 ここまで来て「あまりしつこくても嫌な女になってしまう」と来るあたりが幹子さんの真骨頂だ。もう十分に「しつこい」だろうとは絶対に言わせない気迫が彼女にはある。メールにおける「眼力」と言ってもいい。彼女は読者に反論させる気など最初からいっさいないのだ。そして最後に注目すべきはここだ!

あとはお返事をを

 この「をを」は、一瞬誤植に見えるが、絶対に違う。この「をを」は、誤植ではなく幹子さんの「怒りの表現」だ。すごく冷静な顔をして「あとはお返事をお待ちしております。」と言いながらも、幹子さんのコメカミのあたりにはアニメでよく見る二重「+」印の血管が浮き出ている。そう、幹子さんは冷静なフリをしながらも、その怒りは今まさに頂点に達しようとしているのだ。その結果、幹子さんは思わずスクラッチしてしまった。それが「お返事をを」である。そんな怒りの最上級を表現しようとした幹子さんのレトリックが「をを」の正体なのである。

 もしかすると、このまま英訳したらアメリカでもヒットしてしまいそうな、モダンホラー派のスパレ、それがこの幹子さんからのメールなのである。

2004-12-03 | Project Palm 直接リンク

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